ブックレビュー『不浄を拭うひと』-自らの終い支度を考えさせられる本

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思い出の写真 ブックレビュー

本書は「青年コミック」のカテゴリーに分類されている。電子書籍店の「おすすめ」に入っていたのだが、当初タイトルも内容もまったく知らなかった。

表紙に描かれていたのは、全身真っ白の宇宙服みたいな出で立ちの人物。「保健所の人の話かな」と最初は思った。でも「不浄を拭う」という言葉になにか引っかかりを感じて、とりあえずページをめくってみた。

ごく普通の家庭を持つ「ボク」の職業

主人公の「ボク」は39歳、1児の父で、ごく普通の家庭を持っている。そんな主人公が、現在勤めているのは「特殊清掃の会社」。 仕事内容は遺品整理や、ゴミ屋敷の清掃、そして亡くなった人の部屋を原状復帰させる「特殊清掃」である。

主な清掃現場は、身寄りのないお年寄りが「孤独死」した部屋などで、死後数ヵ月たってから発見されるようなケースもある。いわゆる「ゴミ屋敷」となっている場合も少なくない。

そんな現場へ足を踏み入れるときは、感染症などを避けるため、防護服で全身を保護する必要がある。

そう、表紙の全身真っ白の宇宙服みたいな姿は、この「特殊清掃」の仕事を行うための作業着なのだ。

初めての請け負った仕事でのエピソード

物語は、説明的な冒頭部分から、実際の作業の様子へと移る。いつものように依頼を受けた主人公は、まず自分の消毒を行い、作業現場に入ろうとした。そのときふと、この仕事を初めて請け負った時のことを思い出す。

それは、「孤独死」をした女性のマンションの清掃だった。部屋はゴミ屋敷化しており、発見されたときは死後2ヵ月たっていた。遺体は通常、警察が検視後に回収してしまうため、清掃員がご対面することはない。主人公は、後に残されたゴミの片づけをせっせと行っていた。

作業中、床にカツラが落ちていることに気づく。なんでこんなところに・・・と不思議に思っていると、先輩作業員から、「警察が忘れていったかー」という返事。

なんと、このカツラは遺体からはがれ落ちた頭皮だった!

この仕事をしていて感じること

漫画は基本的に依頼人の仕事を請け負って、淡々と 仕事をこなしていく様を描いている。仕事にまつわるエピソードは、バラエティに富んでおり、

あるときは超高級ホテルの一室で絶命した遺体現場の清掃。またあるときは入浴中に亡くなったお宅の清掃。あるときはゴミの山が天井まで積みあがった部屋への突入。

作業は過酷を極め、真夏の現場の気温は、50℃を超えるという。(悪臭が近所に広がるのをふせぐため、換気ができないそうだ)

詳細はこちらでは省くが、淡々としていながら、それらの様子が実に具体的に描写されている。そんな現場で、主人公が作業しながら感じることは、以下の部分に集約されている。

この仕事をしていると、部屋をキレイにしていくうちに 故人がどういう生活をしていたかわかってくる そして どういう最期を迎えたのかも・・・手に取るように感じるのだ

容赦ないリアルな描写の中に感じる「温かみ」

描かれた内容すべてが実話、というわけではないだろう。しかし、多くの部分で事実が盛り込まれているのではないか。

清掃現場の悪臭、汚染、虫などの話は、かなり詳細に描かれている。汚染状況を、愛らしいキャラクターに置き換えて表現をし、読者へ不快感を与えないような配慮がされているものの、具体的な説明により、本当にその場にいるような錯覚さえ覚える。ある意味「容赦ない」描写である。

ところが、壮絶な現場のはずなのに、なぜか「ほんわか」とする。不思議と嫌悪感を覚えない。それは、どこか温かみのあるなごやかな絵柄のせいばかりではなく、リアルな描写の中に、亡くなられた方への思いやりを感じるからだろう。

主人公は「霊感体質」という一面があり、故人の霊と遭遇するエピソードも入っている。最初この設定は必要ないのではないか?と感じたが、身内を失った悲しみから癒えない遺族へ、この「霊感」が効果的に使われたりして、ちょうどよい小道具になっていた。

最新刊まで読み終えて

現在、第5巻まで発刊されているが、1つ1つのエピソードは短く、漫画なので読みやすい。
愛らしい絵柄とは裏腹に、内容がかなりハードと思われたが、このさき自分の「終まい支度」について、いろいろと考えさせられる本である。


-データ-

著者/編集:沖田×華(著)
シリーズ:不浄を拭うひと
レーベル:ぶんか社コミックス
出版社:ぶんか社
発行形態:コミック

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