作者「雨穴」(うけつ)は、YouTubeで作品を発表しており、すでに「ホラー作家」としての地位を確立している。筆者も当動画サイトや本人運営のブログで作品を読んだことがあり、独特の世界観や文章の切れ味、結末の意外性で注目をしていた。
ちなみに、本作品はこの作家の二作目である。一作目の「変な家」はまだ読んでいないため、コメントは差し控える。
以下、あらすじである。
一つ目の絵 -心理学者の分析-
冒頭は、大学での講義のシーン。少女が描いた絵が登場する。心理学者は絵の作者が、11歳の時母親を殺害したと説明し、絵の内容から少女の環境や、心理状態を分析していく。そして最後に「更生の可能性が十分にある」と締めくくった・・・。
二つ目の絵の”トリック”
冒頭が終わり、第1章で新たな絵が提示される。就活が忙しい大学生、佐々木修平はオカルトサークルの後輩「栗原」から、とあるブログを紹介される。内容は他愛のない夫婦の状況をつづった日記で、ブログ主の妻が描いた絵がアップロードされていた。
短かいながらも興味深いトリックを交えたこの部分の描写は絶妙である。作者運営の動画チャンネルでも紹介されている部分であり、実際の絵はこちらから確認ができる。(小説と多少設定が異なることをお伝えしておく)
複雑に展開していく3つの「時間」
小説は、次の章から本題に入り、やがてふたつの物語が進行していく。5歳男児「優太」と「ママ」を中心に語られる部分と、とある事件を追っている元新聞記者。このふたつは初めのうちはなんの関係もなく進んでいくが、物語が進むにつれて、過去に起こった殺人事件で繋がっていく。
ここでも重要なてがかりとなるのが、一枚の「絵」である。この絵が描かれた意図はなにか?それは実際に読んで確認していただきたい。
登場人物が多く、さらに「事件当初」「事件から3年後」「現代」と、3つの時間が同時進行で語られるため、やや複雑である。恥ずかしながら、記憶力に不安の残る筆者は途中で何度か前頁にもどって確認ことになってしまった。
読者を飽きさせない緊張感のある文章
それにも関わらず、飽きることなく一気に読み終えることができたのは、なんとも知れない緊張感のある文章で先が気になるからである。例をいくつか挙げよう
主人公が何者かに後をつけられているシーン。何とか逃れようとエレベータを呼ぶも、なかなか降りてこない。じりじりしながらも、やっとのことでエレベータに乗り込みほっとしたのもつかの間、背後に突然気配を感じる・・・!ここの部分の描写は秀逸で、読みながら思わず冷汗が出てきてしまった。
つぎは、最終章にはいる直前の最後のセリフ。ネタばらしになるので、控えさせてもらうが、ここが個人的に一番シビれてしまった。いままでもやもやしていたものが一気に晴れる瞬間である。つぎの章では怒涛のような伏線の回収となり、読み終えたあとは、「そうだったのか!」と膝を打った。
しかけ絵本のような展開
読者を飽きさせないもう一つの理由は、つぎつぎと展開される謎の部分である。物語の根幹にかかわる重大な謎から、軽いトリックで終わる小さな謎まで、まるで「しかけ絵本」のように展開される。いくつもの謎に「これはどんな意味なんだろう」と考えながら楽しく読むことができた。
登場人物について、少し触れておく。前述のとおり、この小説は登場人物が多いが、それぞれの人物像が冗長にならない程度に丁寧に描かれている。「行動」にいたるまでの心の動き、何がその人物にそう決意させたかの部分は、この手の小説では重要である。個人的には女性よりも男性の描き方に説得力を感じたが、それほど違和感なく読むことができた。
気軽に読めるミステリー小説
「変な絵」というタイトルのとおり、作中はいくつもの絵が登場する。厚みのある本だが、ところどころで絵がさしはさまれているため、それほどの長さを感じず、一気に読むことができた。手の込んだトリックを使った小説もいいけれど、気軽で、「心地いい緊張感」のある文章を読みたいときには、ぴったりの本ではないかと感じた。
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